『あのこは貴族』

「東京にしかいない人種を描いた」というふれこみに惹かれて読んだ本。

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何ヵ月か前に日経の記事で、地方出身の作者が「東京に住んでみないとわからないことだった最たるものが、東京には貴族がいる、ということでした」と語っていたのを読んで、俄然興味が出たのだった。

すごい、わかる、と思ったから。
東京に住んでみないとわからなかったこと。
いろいろあるけど、「東京にしかいない類の人々」って、確かに存在するのだ。

かつて六本木近辺で働いていた頃、その類の人々と袖振り合う程度のことがちょくちょくあって、とってもとっても興味深かったのだ。

「ああ、日本は格差社会なんかじゃなくて、昔からずっと変わらず、階級社会だったんだ。つまり歴史の教科書に出てくるような日本を動かした人物の子孫は、いまも同じ場所に集積して、そこを我が物顔で牛耳っているのだ。/こんなことは東京で、その世界の住人たちと接触しなければ実感できなかったものだろう。世の中がこんなにも狭い人間関係で回っていることは、自分のような庶民には実に巧妙に隠されている」

やっぱりそうなんだなぁ...と、この本を読んで思った。
もしかしてそうなのか?と薄々思っていたことが、やっぱりそうだったんだ...と。

地方、というより東京以外へ行って、そこで暮らしている人と接したり、自分がそういった場所で暮らしていた頃のことを思い返すたび、
東京の、ごく一部の「貴族」たちの見えている範囲だけで政治や経済が動かされていること、
そしてそのことをほとんどの日本人、東京在住以外の人が知らずに生きていることに、なんとも言えない怖さを感じる。
いや、怖さというより不気味さというべきか。

ただ、この本自体はそういった怖さを直接に描いたものではなくて、アラサーの女性たちを中心としたリアルな描写が多くて、とってもおもしろい。
落としどころもなんだかすごく納得できる感じで、
正直そこまで期待せずに読み始めたのだけれど、同じ作者の別の本も読んでみたくなったのだった。