『歌に私は泣くだらう』

歌人である永田和宏が、妻であり歌人である河野裕子との、最後の日々を書いた本。

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同じく永田和宏が、妻との出会いからの日々を書いた『たとへば君』も凄かったけれど、
この本はそれに輪をかけて凄みがあるというか、全編にわたって切実というか。
涙なしには読めない。
それも、三頁に一回ぐらい涙がこみ上げる。

手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が

亡くなる前日に詠んだという、切れ切れの息継ぎがまさに聞こえてきそうな四句切れのこの歌が、河野裕子の最後の歌になったという。
この一首だけでも、河野裕子という歌人の凄さが分かる気がする。

永田和宏を知ったのは、もう十年以上前に新聞で見た、あるエッセイだった。
あんまりいいエッセイなので、今も切り抜きを残してある。

家族とは時間を共有するものの謂だと改めて思うのです。「あの時、あの海岸で」と言えば、すぐに「ああ、あの空」と帰ってくるような、そんな記憶の共有、時間があってこその家族なのでしょう。楽しい記憶も、懐かしい時間もひとりでじっと抱えているのはしんどすぎるのかもしれません。

このときに痛切に欲しいと思った「家族」を、私も今は得て、時を重ねていっていることの不思議。

生きることに対して背筋を伸ばしたくなったときに、何度でも読み返したくなる本。