誰かの家の食卓

スーパーの鮮魚コーナーを歩いていたら、30㎝ぐらいある大きな白身の魚が安く売られているのを発見した。
これは何とかして使いたいなぁといろいろ思案し、スマホで調べたらオーブンで料理できそうなことが分かったため、近くにいた店員さんに渡してバックヤードで捌いてきてもらうことにした。

待つこと10分近く。
その間に(ほとんど買ったことない)タイムやローズマリーをかごに入れる。

しばらくして、鮮魚スタッフと思われるおじいさんがパックを持って出てきて店員さんを探していたので、「すみません、それクロソイですか?だったら私ですー」と声をかけて受け取った。

すると、一瞬迷うような間を置いて「それ、どうやって食べるんですか?」と訊かれた。
もしかしてプロから見た何かいい食べ方が?と期待して「えっ、オススメの食べ方があるんですか?」と訊いてみると、おじいさんは照れたように笑って「いやいやそういうわけじゃないんだけど。どうやって食べるのかなぁって思って」と。

急に、心にポッと灯りがともった気がした。

バックヤードのおじいさんは、きっとお客さんと直接しゃべる機会はほとんどないだろう。
そんな中、時々表の店員さん経由で魚の処理を頼まれては、これはどんな人がどんな料理にするんだろう、何人家族で食べるんだろうと、いつも想像していたのかもしれない。
あるいは、今日の魚は大きくて丸々一匹はなかなか売れないかもと思っていたのに、調理依頼が入ったから、バックヤードで「売れたぞ~?」と話題になっていたのかもしれない。

そういう、知らなかったおじいさんの仕事の日常に(もっと言えば誰かの人生のひとコマに)自分が入り込んだような気がして、嬉しかったのだ。

「オーブンで焼こうと思って。さっき調べたら、アクアパッツァっていう、ほら、こういうハーブと」とかごの中を見せたところ、おじいさんはほぅ、というように覗き込んでから、「素敵な食べ方ですねぇ」と微笑んで去っていった。

あのおじいさんは、バックヤードに戻ってから同僚に「さっきのクロソイさぁ、オーブンで焼くんだって。なんかハーブ持ってたよ」とか話すだろうか。

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