乾いた雪の降るところ

このところ、一番好きな作家と言ってもいいかもしれない松家仁之(まついえまさし)。

前に一度読んだ『沈むフランシス』を、また読み返したくなって読んでいる。

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35歳の主人公桂子が、東京の大きな会社を辞めて北海道の小さな村に移り住む、その経緯を描写したくだりにとても「分かる」と思った。

預金は少なからずある。かたちの定まった仕事、その日その日で終わる仕事をしたい。それも北海道で。仕事が終われば、料理をして、本を読み、音楽を聴いて、DVDを見る。給料は安くてもいい。空がひろく、川が流れていて、クマやシカがいて、乾いた雪の降るところ。場所はできれば枝留周辺、と決めて仕事を探した。

三十代の半ばを見据えて思い切って転職したとき、場所は東京か、生まれ育った関西、もしくは北海道を考えていた。
一番早く条件の合う求人が出ていたのが東京だったから東京に来たけれど、
あのとき北海道に移り住んでいた可能性だって、十分にあった。

そうしたらたぶん息子はいなかったけれど。
それは困るけど。

いつか、乾いた雪の降るところであたたかく暮らしたいという夢を、まだなかなか捨てきれずにいる。