朋あり遠方より来る

3月3日のちらし寿司ならぬ、手巻き寿司。
刺身の盛り付けが苦手なので夫にお願いしたら、期待以上にうまく盛り付けてくれた。

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なかなか会えずにいた会いたい人たちと、うちで久しぶりの集まりだった。
遠い人は二時間ぐらいかけて。
「朋あり遠方より来る、また楽しからずや」とはこのことであるなぁと、しみじみ楽しく美味しいお酒だった。


学生の頃、仲良くしていた男の子の下宿に、夜遅く用事で立ち寄ったことがあった。
その下宿はまさに昔ながらの下宿で、築6,70年は経とうかという木造二階建て。
二階に各学生の部屋(もちろん和室)が四部屋、一階には共同トイレと学校の水道みたいな水場があるのみで、お風呂はもちろんなし、靴は共同玄関で脱いで下駄箱に、みたいな造りだった。

そのトイレの横に、隣の大家さんちにつながる小さなドアがあった。
大家さんはものすごくお年寄りのおじいさんだと聞いていたのだけど、
私が立ち寄ったまさにそのときに、その小さなドアが急に開いて、仙人みたいな髭をはやした腰の曲がったおじいさんが現れたのだった。

夜遅かったことや、男子だけの下宿だったこと、そして何より、そんな仙人みたいなおじいさんがどういう反応をするのかまったく読めなくて、何か大きな声で叱られるんじゃないかと咄嗟に身を硬くしたのだけれど、おじいさんの口から出てきたのは、意外な言葉だった。

「朋あり、遠方より来る。また、楽しからずや...」

そう呟きながら、おじいさんはにこやかにゆっくり私の横を通りすぎ、玄関から外に出て行った。

あれ以来、この言葉を聞くと必ず、あのおじいさんのことを思い出す。

その下宿は何年か後に取り壊されてしまった。
だから、あのおじいさんも、あれから遠からずして亡くなったのじゃないかという気がしている。
もしかしたら、百歳ぐらいだったのかもしれない。

なんだか年々、本当の仙人だったような気がしてくる。