飢餓気分

ひょんなことから知った、吉村昭の『破獄』を読んでいる。

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吉村昭は一冊だけ『羆嵐(くまあらし)』を読んだことがあって、めちゃくちゃ面白かったのだけど、『破獄』もなかなか面白い。
太平洋戦争前後に実在した脱獄囚を描いた小説で、当時の刑務所事情が描かれている。

そういえばあまり考えたことがなかったけれど、戦時の刑務所というのは、想像を絶する困難さがあるのだった。
端的に、空襲で建物の破壊が起これば収監はできなくなるし、破壊までいかずとも破損ですら脱獄の原因になる。

そして戦時の食糧難。
一部舞台となっている網走刑務所は、農場を併設した全国でも有数の食糧に恵まれた刑務所だったらしい。
それでも、戦況が悪くなるにしたがって囚人が栄養失調で亡くなることが増えた。
栄養失調の原因は、主食の不足ではなく、野菜やたんぱく質といった副菜不足だったとか。

囚人の管理にとって食べ物はものすごく重要で、下手に減らすと暴動が起きるため、主食は一般の人々より多い量を与えられていたらしい。
でも、一般の人が野草やその辺の生き物を捕まえてなんとか栄養を補っていたのと違って、刑務所ではほぼ主食しか出てこなかったから、食べる量は確保できても、生きるのに必要な栄養が保てなかったのだ。

そのくだりを読んでいると、無性に野菜が食べたくなってきた。
ほんの少しの野草であっても、それがあるのとないのとでは生死に関わるんだ...と思ったら、こうして冷蔵庫にいつでも野菜が入っているのはなんとありがたいこと...。
危うく傷みかけた大根の葉っぱも、急いで大事に調理する私なのだった。

戦時の食べ物の話を読んでいると、毎食のごはんが本当に貴重。