夫の台所

月に二度ほど、夫が昼夜の食事を用意してくれるシステムになって、九ヵ月が経った。
私が仕事の日であろうが夫が休みの日であろうが、当たり前のように私が三食三人分用意しなければならないことにすっかり疲れ果て、あるとき夫に「ごはん作りは365日年中無休だ。あなたには丸一日休みの日があるけど私は全く休めない。こんなのおかしい。毎週とは言わないけど、月に最低二日は私がごはんのことを考えなくていい日を設けてほしい」と主張して、以来そのシステムが続いているのだった。

夫が食事を用意すると言っても、私が解放されることが目的なので、別に外食でもいいし、買ってきたものでもいいというシステム。
けれど夫はなぜか自炊にこだわって、だいたい七~八割ぐらいは自分で作っている。
とは言え、朝は決まったメニュー(トーストとか)だし、昼は私が出かけて外で一人ランチをしてくることが多いので、三人家族の一日の半分ぐらいの用意でいいわけだから、まぁそれは続くでしょうと私は思っている。

このシステムを始めるにあたって、私がつけた注文は大きく二つ。
まず、最低でも一週間前には「この日にやる」と決めて私に伝えること。
当日や前日になって「今日やるわ」とか「明日は作るわ」と言われても、もう食材の都合をつけてしまっていることが多いし、何より私の休日の予定が立たない。
もうひとつは、買い出しや調理はもちろん、後片付けまできっちりしてもらうこと。
「キッチンを、使う前と同じ状態に戻す」ことを強調した。

夫は昔ファミレスで調理バイトをしていた経験から、自分はある程度料理を作れると思っている節がある。
結婚してすぐの頃に一度トロトロタイプのオムライスを作ってくれたことがあって、まぁそれは普通においしかったので(ただし私はしっかり焼きタイプのオムライスの方が好きだった)、それなりに作れるのかなと思っていたけれど、多分それが唯一の得意メニューだった。
他は、とにかく雑。
そして、味のセンスがない。
量の感覚も、20代男子並み。
そんなわけで、初めて作った夫メシは、こんな感じだった。

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どーん。

夫が作ったのは冷やし中華で(他は買ってきた鰹と、確か私の作り置き)、盛りつけの問題もさることながら、玉ねぎは分厚くて辛いし、そもそも冷やし中華に生の玉ねぎ入れる?って感じだし、何より量がすごすぎて、もちろん半分ぐらい残した(夫が食べた)。
夫も、自分で食べてみて微妙な顔をしていた。

そして何より、キッチンの後片付け。
油や汁が飛び散っている。拭いた跡はあるけど雑。
使ったところは拭くけど、(予めしまっておけばいいのに)周りに置いたまま調理して油が飛んだやかんなんかは汚れたまま。
床に切りくずも散らばっている。

料理人の修行が後片付けや掃除から始まることを、私は「いいところをやらせてもらえないと、せっかくのやる気を削ぐんじゃないか」と思っていた部分があったけど、夫を見ていたら「これは、大事だわ。何よりも大事だわ。」と深く納得するようになった。
道具や作業場を整えておくことのできない者が、作業を一人前にできるわけがない。

それから九ヶ月。
夫の台所は、少しずつではあるけれど、確実に進化した。
月に二回と言わず、作れる休みの日は簡単なもの(焼くだけのギョーザとか)を作ってくれるようにもなって、私の負担はずいぶん減った。
夫も、時には買ってきたものや外食を挟んで、適宜手を抜くようにも。

そして最近やっと、普通においしいものが出てくるようになった。

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炊きたてごはんに具だくさん豚汁、茄子の味噌炒め。量もまずまず適切。
そうそう。こういうのでいいのよ。

後片付けも、最近は「九割方、使う前の状態」に戻るようになった。
油が跳ねそうなメニューのときは予め跳ね防止のカバーを立てるし、拭き跡も前より丁寧になった。

味のセンスはまだまだ道のりが遠くて、冷やし中華に生の玉ねぎを入れるような妙なことがたまにあるけれど、一応ちゃんとレシピを調べるようになったし、そこまで変なものが出てくることはなくなった。
家にある使っていい食材を予め聞いてきたり、残った食材を申し送りしたりもしてくれるようになった。

これでなんとか、二人目が産まれた後の修羅場でも、調理家電やお弁当を駆使しながら乗り切れるかも...という気持ちになってきている。

いつか、広いキッチンの家に住んで、普段から一緒に料理できるようになったらいいのにな。