自分では見つけない本

夫とは読書の趣味がまったく違うのだけれど、先日夫が図書館で借りてきた本が、珍しく私の目に留まった。
「仮住まい」というタイトルに惹かれて目次をパラパラ見てみたら、なんだかとてもおもしろそう。
しかも10月に出たばかりの新刊。

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もうすぐ返却だというので、ザッと読みではあるけれど急いで読みきったら、とても興味深い内容だった。

ものすごく簡略化して要約すると、「戦後日本の住宅政策は持ち家を得ることをゴールとして優遇してきたけれど、ライフコースが多様化している現在、住まいの政策も現状に合わせ、持ち家のみ優遇する政策をやめるべきだ」というもの。
その主張の根拠として、持ち家、実家住まい、賃貸、仮設住宅という四つの住まい方を軸に現状の分析がなされていて、ほほ~、そうだったのか!と大変勉強になった。
仮設住宅が入っているところが、オリジナルな視点だなぁと思う(最終的には、筆者の主張からとても納得がいく)。

以下、(ちょっと長いけど)要約と感想。

日本では、人口が減って空き家が増えているにもかかわらず、持ち家取得だけを優遇する政策は方向転換されていない。
そもそも、政策が想定しているライフコースはワンパターンで、「実家→家を出て単身賃貸→結婚してファミリー向け賃貸→持ち家」という一本コース。
だから実家や賃貸住まいは、政策的には「仮住まい」だという暗黙の想定になっている。
けれども、今は晩婚化、子どもを持たない夫婦や独身者の増加、雇用の不安定化と賃金低下で実家を出たくても出られない、等々の理由により、上記のワンパターンなライフコースを辿る人はどんどん減っていて、実家や賃貸住まいはもはや「仮住まい」ではなく「定住の場」になってきている。
実家住まいの人も、良質で妥当な家賃の賃貸があるなら実家を出たいと考える人が多くて、持ち家ではない住まいを長期間必要としている人が増えているにもかかわらず、日本の特に都市部には、そういう良質で妥当な家賃の賃貸がほとんどないのだそうだ。
共同住宅の広さを分譲と賃貸で比較すると歴然とした差があって、ある一定の面積以上の物件は分譲になってしまう。

これにはすごく納得。
独身時代、持ち物の多い私は、古くてもいいから面積の広い賃貸をいつも探していたのだけれど、これがまぁ、常識的な家賃内ではほとんどなかったのだ。

この本では、諸外国との比較をしてくれているのがすごく参考になった。
先進国の中で、賃貸向けの公的支援(家賃補助だけでなく、公営住宅の建設含む)がこんなにも行われていないのは、日本を含むごくわずかなのだそう。
日本ではずっと、住宅支援は雇用主である企業任せで(社宅や寮、借り上げ社宅、現金での家賃補助)、公的なものはほとんどない。
私はそれって普通なのかと思っていたけど、違うんだ!というのが目から鱗
日本にも公営の賃貸があるけれど、全体から見るとごくごくわずかで、しかも2004年(だったかな?)以降は、新たな建設はされないことになったのだとか。
これはいろんな分野での規制緩和が進んだ頃で、要は公的支援を縮小して民間の競争に任せた結果、良質の手頃な賃貸がますます減った...ということなのだった。
知らなかった。なんということ。
また規制緩和の弊害か...と苦々しい気持ちになった。

しかし、住宅支援が企業任せとなると、自営業者やフリーランスはもちろん、勤め人は現役時代に持ち家を取得していないと、年取ったときに住む家がないということになる。
高齢になってから家を貸してくれる民間の借家はなかなかないから、公的に助成して高齢者向け賃貸住宅の登録を進める動きもあるらしいのだけれど、この助成というのがなんと借り手ではなく貸し手に対するもので(改装費とか)、しかも手続きが煩雑だから、登録数も低いままに留まっているらしい。
なんか、意地でも持ち家優遇政策を曲げないって感じだな...。

筆者によると、日本では公的支援の対象である社会的弱者を細かくカテゴリー分けしているのだけれど(生活保護者、一人親世帯、障害者等々)、カテゴリー分けして支援することが「特殊な人たちへの支援なんだ」と思わせる効果を生んでしまっているという指摘もなされていて、これも目から鱗だった。
たしかに。
これっていわゆる「分断化」だよなぁ。
同等に支援を受けていい人たち同士が、「自分はあの人たちとは違う」と、互いに特別視することを促進してしまっているのだ。

この本の筆者は、これから人口が減ってますます高齢社会になり、コロナで経済もさらに不安定になる今後、雇用や少子化対策ばかりがクローズアップされるけれど、住まいへの公的支援はそれと同じぐらい重要だと言っていて、首がもげるほど同意した。
住むところがあるかないかって、仕事があるない以前にもっと大事なことだもの。
筆者は、生活保護や失業手当はいわば「事後救済」だけど、住まいへの公的支援生活保護や失業を減らすための「予防」になると言っていて、それにも全面的に同意だった。


夫と私は、衣食住への関心の順位が「住→食→衣」という点が一致している。
ただ、私の関心の持ち方はインテリアだったり建築だったり、「(その中に)住まうこと」であるのに対して、夫はもう少し広い視点から関心を持っていて、そのことで私の関心も広げられてきたなぁと思う。
この本も、自分では全然アンテナを張っていなかった。

身近な問題としても、これからの自分たちの住まい問題とか、将来の互いの実家どうするのか問題とか(ほぼ確実に空き家になる)、独身だった時の定住問題とか、いろいろ考えさせられる本だった。