大阪ベイブルース

文芸誌に掲載されていたときから気になっていた本。

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柴崎友香と岸政彦、どちらも好きな書き手だしテーマはずばり「大阪」だし、絶対に外さないだろうと思って読んで、予想以上にストライクだった。
何か、いろいろな感情が喚起される本だった。

大阪をテーマに書かれた本はきっと星の数ほどあるし、その中でも人でなく「街」に焦点を当てたものはたくさんあるだろう、けれどこれがストライクだったのは、描かれた街の年代が、まさに私自身が知っている時代の大阪だから。
柴崎友香は同世代というには少し上だけれど、それでも、同じ時代の街を同じくらいの年齢で体験していたことは間違いない。
読んでいたら、小学生~十代の頃に歩いた大阪のいろんな街のことが思い出されて、急にいろんなことを語りたくなった。
たぶん、読む人みんなが、それぞれにそれぞれのことを語りたくなる本なんだと思う。

お金のない子どもが、時間も人目も気にせずボーッと過ごせる場所が全くないのに耐えられず大阪を出た私にとって、大阪は長らく「好きではない」街だった。
嫌いとまではいかないけれど、「好んで居ることはない」場所。

それでも最近は時々無性に大阪に行きたくなる。
住みたいかと言われれば、現実的にはいろいろためらうけれど。
一ヶ月ぐらい滞在して、「あぁそうやったそうやった、こういうところが嫌なんやった」と思い出すぐらいのところで、今いる場所に帰ってきたい気がする。

だけどたぶん、私の帰りたい大阪は、80年代終わりから2000年代初頭までの大阪だから、本当はもうどこにもない場所なのだと思う。
その街があるのが、この本の中だった。