匂いはタイムカプセル

朝夕、幼稚園バス停までの送迎に蚊が出るようになった。
去年までは虫除けスプレーで対処していたけれど、そういえば夏の終わりに雑貨屋さんで携帯蚊取り線香を買ったのだった、と思い出した。
小さい渦巻きが入れられるサイズの、ベルト通しなんかにぶら下げられる容れ物。
今こそ使い時だと、さっそく使ってみることにした。

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効き目はバッチリ。
使い始めて一週間経つけど、蚊がまったく寄ってこなくなった。
抱っこひもの次男にも、私にも、手をつないでいる長男にも。

どうしても髪や服に匂いはつくけれど、昭和に育った私にとって、蚊取り線香の匂いはむしろ懐かしくて好ましい。
長男を見送ったら火を消して玄関に置いておくのだけれど、玄関にうっすら漂う蚊取り線香の匂いを嗅ぐたび、どうしようもなく夏の記憶がよみがえる。

小学校のプールの塩素や、プールバッグの匂い。虫さされ後に塗るムヒの匂い。花火が燃え尽きる直前の、どこか酸っぱいような火薬の匂い。年に一度、祖母の家の屋上から見る花火。地蔵盆で配られるおにぎりの味。お盆休みに行く家族旅行の、海水浴の海水の味。浮き輪の匂い。日焼けしてめくれた肩の皮。

中学に上がる頃からは、蚊取り線香ではなくベープマットや液体ベープを使うようになった。
だから、蚊取り線香の匂いで思い出すのは圧倒的に小学生時代の記憶だ。
そして、小学生が終わる頃に昭和が終わって、時代は平成になったから、蚊取り線香の匂いは昭和の記憶になった。

平成の終わりと令和の初めに生まれた息子たちは、蚊取り線香の匂いで何を思い出すだろうか。