チャイとカレーと三年目の春

久しぶりに訪れた店は、昼のピークを少し外したつもりだったのにほぼ満席で、二人連れの女子大生と一人女性客に挟まれた小さなテーブル席に私がすべりこむとすぐ次の客がやってきた。
コロナ前に戻ったような盛況だったけれど、片付けられたテーブルはマスク姿の店員さんによって素早くアルコール消毒され、食べ終わった人たちも静かにマスクを着けていて、世界はまだまだコロナ色なのだった。

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記憶を辿ると、この店に来たのはもう二年近く前だった。
次男がまだお腹にいて、もうそこそこお腹が大きくなってきていた頃だ。

いつもと同じ二種類のカレーセットを選び、本日のカレー(バターチキン)と野菜カレーを選び、ライスではなくナンを選び、食後の飲み物にホットチャイを選ぶ。
ここのナンは生地が薄すぎず厚すぎず、パリッモチッとしていていつも美味しいのだ。

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ネパール人の店員さんは愛想が良く、隣の女子大生に「大学生?おいしい?」と話しかけ、私のテーブルに来ると「おいしい?初めてですか?」と話しかけた。
「いえ、前はちょくちょく」と言うと、彼はにっこり笑って「ありがとうございます。ごゆっくり」と持ち場に戻って行った。
彼がいつもフランクに話してくるのは性格なのか文化なのか分からないけれど、「~ですか?」と訊かれたのはたぶん初めてで、あぁ、私はもう「一応敬語を使う=若くはない相手」に分類されたんだなと思った。
それは悲しいことではなく私にとってはむしろホッとすることで、若い頃から「若い女の子扱い」されることがかなり苦手だった私にとっては、世の中の店員さんとの距離が、最近ようやく居心地悪くなくなってきたところなのだった。

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食べ終わる頃には客足もだいぶ落ち着いて、隣の女子大生たちの話をぼんやり聞きながら、ゆっくりホットチャイを味わう。
女子大生たちは誰かが食事に誘ってくるときの店選びについて、大学の授業について、バイト先について、いま互いが食べているものについて、小声ながら途切れなく忙しくおしゃべりしていて、あぁ、私もこんな風に忙しくおしゃべりしていた時代があった...と懐かしく思い出した。

店も私も二年間を生き延びて、もうすぐ次の春がやってくる。