陶器市の思い出

結婚前に、夫と益子の陶器市に行ったことがあった。
東京に来てまだ五年も経たない頃、益子が東京から見てどのへんにあるのか、どれくらいの距離なのかも、まだよく分かっていなかった頃だ。

秋の連休に催された陶器市は予想をはるかに上回る混み具合で、何時間かかかってたどり着いた駐車場はどこも満車、空きを待ちながら「これ、ろくに見ないうちに帰らないといけなくなるんじゃないか」とハラハラするほどの盛況だった。
後で知ったけれど、本当は朝イチに行かなければならないようなイベントだったのだ。

だけど運良く空車の順番が回ってきて、少し離れた駐車場に車を停めていざ出かけた陶器市は、プロの作家からアマチュアの作家、食器から大きな壷や飾り物に至るまで、それはそれはバラエティに富んだ楽しい場所だった。
作家ごとのブースの他に、お茶碗やお皿がまとめてごちゃっと置いてあるテントもあったりして、とてもじゃないけど1,2時間では見て回れないくらいの市だった。

器は好きだけど専門的な見方をよく知らない私は、値段が高いのか安いのかも判断がつかなかったけれど、一軒、スーッと引き寄せられてどうしても目が離せなくなったお店があった。
私の好きな、鮮やかなターコイズブルー釉薬を使った器がいくつかあって、その色といいマットな質感といい、どれもこれも私の好みにマッチしていたのだ。
ターコイズブルーのもの以外でも好きな質感のものがたくさんあって、あぁいいなぁ、これには絶対アイスクリームを入れたいな、これはちょっとした煮物かなぁと、入れたい食べ物を空想しては買おうかどうしようか迷っていた。

どうやら作っているのはご夫婦で、陶器市の常連さんらしいことが、周りのお客との会話から分かってきた。
夫と妻で作風が違うのだけれど、私の好きなのはどうやらご主人の方の作品だった。
迷っているうちにも、けっこうちょくちょく売れていく。
このお店目当てで陶器市に来ている人もいるようなので、これはきっといい器なのに違いない、とようやく踏ん切りがついて、悩みに悩んだ末、絞れなくて4つの器を買って帰ったのだった。

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ここ数年は子育てで余裕がなく、自分の食べるものを可愛く盛り付けるなんて二の次、食洗機にガシガシ入れられる器ばかり使っていたけれど、この間ふと思いついて、遅めの朝食をその器に入れてゆっくり味わってみた。
そうしたら、それを買ったあの陶器市のことが久しぶりに思い出されてきたのだった。

益子の陶器市、楽しかったなぁ。
夫はあのときそば猪口を2つ買ったんだっけ。
私は結婚した後そのそば猪口に再会して、冬になるといつも夫はそのどちらかで焼酎のお湯割を飲むのだった。

あれからしばらくは、その作家のご夫婦のホームページを時々見ていたのだけれど、いつか見に行ったら「サイトが見つかりません」になってしまっていた。
茨城を拠点とするご夫婦だったことだけは覚えているけれど、もう屋号もすっかり忘れてしまった。
今もまだ作陶を続けて、いろんな市に出品しているんだろうか。
いつかまた、どこかであのご主人の器に出会えるといいなぁと思っている。