クオリティオブ自転車ライフ

独身の頃乗っていた自転車は、ビアンキクロスバイク
特徴的なブルーグリーンに惹かれて、20代半ばに手に入れたものだ。
それまで普通のシティサイクルしか乗ったことのなかった私にとって、ペダルを踏み出した瞬間の滑るような走りは、ちょっとした感動ものだった。

当時は交通手段として自転車が便利な街に住んでいたものの、その後引っ越して電車通勤になり、仕事でしょっちゅうスカートも履くようになってからは、パンツでしか乗り降りできないビアンキは、だんだん駐輪場に置かれたままの時間の方が長くなっていった。
そうなると自転車はあっという間に傷む。
久しぶりに乗ろうと思ってもタイヤの空気が抜けていたり、軋み音が出たりして、乗るたびに大がかりな手入れをしなければならない。
しかも、ロードバイクのタイヤはフレンチバルブという少し面倒くさい空気の入れ方なので、時間に余裕のあるときしか空気入れができず、ますます足が遠のいていったのだった。

たまにしか乗らなくなって数年した頃、大学時代に自転車部だったという人に出会った。
「恥ずかしながら実はうちに、モノはいいんだけど手入れができずサビサビになっている自転車があってですね...」という話をすると、彼は身を乗り出した。
なんでもチャリダー(自転車乗り)というのは、走るだけでなく自転車の手入れをするのが大好きなのだそうだ。
彼も大学時代、部室にこもって自転車を解体手入れしているときが、至福の時間だったとか。
「よかったら一度状態を見ますよ」という話になって、え、そんなことしてくれるの?(ラッキー♪)ということで、お昼ごはんをごちそうするのと引き換えに見てもらうことに。
最終的にはいわゆるオーバーホールに近いぐらいの大がかりなメンテナンスをしてもらって、見違えるような走りが戻ってきたのだった。

せっかくメンテナンスしてもらったのと、乗ってみて不具合がないかを確認してもらうため、その後日を改めて、近場にサイクリングに行くことに。
初めて走る東京の道は、電車で回るのとはまた違う楽しさがあって、その後もまた、一緒にサイクリングに出かけたのだった。

詳細は省いて後年、そのチャリダーと結婚することになった私は、以来、毎日快適な自転車ライフを手に入れた。
何もしなくてもタイヤの空気圧は常に保たれ、ブレーキの利きは常に最適、チェーンは常に滑らかだ。
特に最近は、夫が時々通勤に自転車(件のビアンキ)を使い始めたから、さらに快適度が増している。
やっぱり、自分が乗るとなるとちょっとした不具合も放置できないらしい。
子どもを乗せるママチャリも夫婦ともに乗るから、不具合があれば夫がすぐに直してくれている。

思うに、自転車が常に最適状態にメンテナンスされているというのは、生活の質(QOL)をかなり向上させてくれているのではないだろうか。
日常的に一番使う乗り物が毎日快適というのは、それだけでQOLがダダ上がりと言っていい。
徒歩圏内にあってほしい施設っていろいろあると思うのだけれど(食料品店、クリーニング店、かかりつけ医etc.)、自転車屋さんもそのひとつだ。
パンクしたときに自転車屋さんに持って行くのはすごく大変だし、それが億劫で放置したことも何度もある。
でもいまや、夫にひと言「お願い~」と言っておけばいいのだから、これは本当にありがたい。

まさか二十年以上乗ることになるとは思わなかったビアンキは、巡り巡って新たな主を得て、まだまだ現役で活躍することとなった。