ずっしり

すごい本だった。
久々に、読みごたえのあるノンフィクション。

数年前に滋賀県であった、看護学生による母親殺害事件の話だ。
チラッと覚えていた気もするけれど、これを読むまでは、そんな壮絶な背景のある事件だったとは全く知らなかった。
三十年にも及ぶ、いわゆる「教育虐待」の犠牲者である娘本人の手記と、獄中接見での取材から構成されている。

教育虐待という面がクローズアップされているものの、これは普通(?)に壮絶な身体的、心理的虐待の話でもあって、犯人である娘への同情を禁じ得ない。
母親は確実に狂気だと思うし、同じ母親の立場からしても、とても同情はできない。
だけどこの娘は、その狂気を三十年浴びてなお、正気を保っているのがすごい(殺人を「正気」と言うのはおかしいけれど、あえて)。
これだけ強靭な精神力を持った人が殺人犯になる前に、誰か何とかできなかったのかと、本当に胸が痛んでならなかった。

そして、ちょっとびっくりしたのはこの本の著者がまだ二十代だということ。
しかも、初めての著作らしいのだ。
著者の顔写真も載っているのだけれど、二十代にしてはとても落ち着いた感じの女性で、事件のみならずこの著者にも興味を持った。

人は誰にでも口を開くわけではなくて、理解してくれそうな人にだけやっと口を開く、ということが往々にしてあると思う。
そういう意味で、この著者の女性は、とても聴く力のある人だったんじゃないかと思った。
読後もずっと後を引いて、いくつかの関連記事をネット検索して読んだのだけれど、その中に著者へのインタビューもあって、そこで事件に対する見解を読んでもそう思った。
とても共感力や想像力があって、きっと情熱もあり、でも冷静な文章が書ける人なのだろう。
講談社のノンフィクション賞にもノミネートされているみたいなので、評価されるといいな。