いつかの神戸

今朝の夢は、雨の神戸だった。

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神戸といっても、実際にある場所なのかは分からない。
記憶の中、それも定かでない幼い記憶の中の神戸だ。

幼稚園から小学校低学年の頃、うちで「神戸に行く」のが流行っていた時期があった。
大阪から車で神戸まで行き、六甲牧場で遊んで帰りに(たぶん)三宮あたりでごはんを食べて帰るというコース。
大阪の人にとって神戸というのはたぶん少し「よそゆき」感があって、神戸に行く日は両親がどこか浮き足立っていて、朝から嬉しそうだった。
結婚前に時々神戸でデートしていて、よく行くお店がいくつかあったのだそうだ。
いま思えば、子どもが少し大きくなってあちこち連れ歩けるようになり、十年近く前の懐かしの街にも行けることに気づいて、ちょっとした神戸ブームが起きたのだろう。
「今度の日曜、神戸行こか」と思いついたように言うときの両親は、もれなく楽しそうで、そこから「あの店に行って、ここに寄って」とコースの選定が始まるのだった。

何度か行った神戸行きの中で、私が場面として覚えているのは、雨の日の神戸だ。
神戸については全く土地勘がないから、神戸のどこだったのかは今も分からない。
覚えているのは観光地っぽい石畳の道で、時間は夕方、ガス灯みたいな暖色の街灯が濡れた地面に反射して、外国の街みたいに見えた。
通りにはいろんなお店が並んでいて、その中のひとつのオルゴール屋さんになぜか入ることになった。
別に買うつもりで入ったのではないと思うけれど、店内を見ているうちに両親のテンションが上がり、「買ってあげようか」ということになって、姉と私にひとつずつ、別々にオルゴールが買い与えられたのだった。

姉のはシンプルな箱形のもので、確か外国人の小さな男の子と女の子の絵が描かれてあった。
曲は「ある愛の詩」。
箱を開けるときに小さく鳴る「ギィ...」という音まで覚えている。
私のは、自分で選んだのか親に選ばされたのか、グランドピアノの形をした立派なもので、ピアノの弦がある部分にオルゴールの本体が入っていて、曲が流れるとオルゴールの仕掛けが回るのが見えるようになっていた。
グランドピアノの屋根も開閉できたし、譜面台の楽譜まで作り込まれていて、いま思うと、けっこう高価だったんじゃないかと思う。
でも私のオルゴールはメロディが覚えにくい変な曲で、姉のオルゴールの曲が羨ましかった。
その変な曲の名前は「フィーリング」と書かれていて、それがハイ・ファイ・セットのフィーリングかもしれないと気づいたのは、30歳近くなってからだった。

神戸の夢を見たのは、たぶん少し前に姉と神戸の話をしたからだと思う。
ちょうど一年ぐらい前にやっていた、NHKのものすごく良かったドラマ「心の傷を癒すということ」が映画化されるというので。
https://www.nhk.or.jp/drama/dodra/kokoro/

ドラマの中の神戸は昭和の雰囲気で、オルゴールを買ってもらった頃の神戸を思い出した。
あの雨に濡れた石畳の街がどこだったのか、今となっては分からないし、分かったとしても、震災できっとすっかり変わってしまっているだろう。

夢の中だけど、あの石畳の街にまた行けて良かった。