冬の能登③ 陰翳礼賛、当たりの宿

今回の宿は、いろいろ検討した末、とある民宿に二泊することに。
内装にも食器にもふんだんに漆が使われているという、純和風の小ぢんまりした清潔な宿だった。

今回の旅は、全国旅行支援に加え、各自治体が支援しているいろいろな制度も使うことができた。
そういうのを調べるのは夫の係なのだけれど、その制度を使える宿リストの中から夫が最初選んでいたのは、別の旅館だった。
子連れだから無難なところをチョイスしたようだったけれど、夫に「ここでいい?」と聞かれてから自分自身でも調べ始めると、ちょっと気になる部分がいくつかあって、う~ん...と考えることに。
夫がリストの中であまり考えていなかった「民宿」を一軒一軒見ていくと、何軒か特色のある民宿もある。

ここで、旅好きのこれまでの経験から、これは「鶏口となるも牛後となるなかれ」ーつまり中途半端な旅館より、規模は小さくてもレベルの高い民宿の方がいいのではないかーという勘が働いた。
子連れだと和室がありがたいし、食事も個室で用意とあるので、旅館の大きな食事会場で食べるより落ち着きそう。
何より食器は輪島塗、内装も拭き漆というのが、せっかく漆で有名な輪島に泊まるなら...という気持ちを後押ししたのだった。

結果、大正解。
とにかく至るところに細やかなセンスや気遣いがあって、そういうのをひとつひとつ見つけるのも楽しい宿だった。
掃除も行き届いていて、空気が清浄な感じ。
トイレと洗面所は共同、部屋はとても簡素な和室で、それぞれに能登の地名がつけられている。

この部屋名が記された竹ざるも、文字の部分は貝殻(?)で貼り絵のようになっていて、手が込んでいる。
室内は小さなちゃぶ台とお茶セットだけ、というシンプルさで、TVもなければ冷蔵庫もない。
TVは後で、押し入れにしまわれているのを見つけたけれど、最終日近くに子どもたちをおとなしくさせるのに使ったぐらい。
宿の簡素さに順応するように過ごしていると、不思議と満ち足りたような気持ちになるというか、ふだんの過剰さから離れて、デトックスされるような気にさえなるのだった。

食事もそうで、朝も夜も純和風。
過剰でないけれど不足はなく、魚がふんだんに使われた、脂の少ない丁寧な料理だった。
しかも白米が激うま。

食器は輪島塗。
古いものを塗り直ししたそうで、大事に手入れされながら使われているのが分かる。

どれを食べてもおいしくて、全品が日本酒のアテになる味。
当然、能登のお酒も頼んで、個室での食事をゆっくり楽しむ。

子どものメニューも丁寧に料理されていて、おいしそう。

食べ終わった子どもたちにはYouTubeのアニメを音なしで見せておき(こういうときのためにふだんYouTubeを見せないでいる)、夫と「個室だから部屋食みたいでいいね~」と言いながら、魚尽くしの料理に舌鼓を打った。

宿を決めた後で知ったことだけれど、ここの宿はいろんな雑誌やメディアにも取り上げられたことがあって、かなり評判が高いようだった。
同じように輪島塗の器や内装が特色の民宿は他にもあったのだけれど、最終的に私の決め手になった「オーナーご夫婦の人柄の良さ」は前評判通りで、子連れでバタバタしていたにもかかわらず、ひとつも嫌な思いをすることなく過ごせた宿だった。
商売にせよ同僚にせよ何にせよ、年齢を重ねれば重ねるほど、「人柄の良さ」は何よりも優先するな...と、改めて思う、能登の宿であった。