テクマクマヤコン

ここ一年ぐらいだろうか、近くの小さいものがだいぶ見えづらくなってきた。
当事者になるまでは「小さいものが見えなくなる」と思っていたけれど、小さいものというより、近くのものに焦点が合わなくなってくるのだ。
近くでも大きいものはなんとなく見えているから気づきにくいけれど、解像度は低くなっているはずだ。

近視のコンタクトを入れているので、コンタクトをしているときは特に見づらくなる。
一番困るのが、自分の顔の細部が見えないこと。
これまでの感覚で「たぶんそろそろ要らない場所の産毛が伸びてきているはず」と察知して、裸眼の時に注意してチェックしている。

若い頃、アルバイト先に当時50代ぐらいの女性がいて、その人のメイクがいつも気になって仕方なかった。
いかにも「20代の娘さんに聞きかじったんだろうな...」という中途半端なメイクをしていて、当時流行っていたハイライトは白浮きしまくっているし、何より顔の産毛がすごかった。
こちらが指摘するわけにもいかないけれど、いつも「あ~、きっと暗いところでメイクしてるんだろうな。明るいところですれば気づくのに...」とハラハラしていた。
でもあれは、明るい暗いだけではなく、たぶん老眼で全然見えていなかったのだ。

自分の顔の細部が見えづらくなってきて、よくその人のことを思い出す。
あぁならないように注意しよう...と思うと同時に、何も分かっていなかった小娘がすみませんでした...!と懺悔する気持ち。

先日メイク関連コーナーをちょっと整理していたら、いつかデパコスの粗品でもらった手鏡が出てきた。

あれ?なんでこれ、置いてるんだろう。
前に同じお店で似た手鏡をもらって、多すぎるから捨てようと思ったはずなのに...とフタを開けて、分かった。
こっちの手鏡は、拡大鏡が片面についているのだ。
たぶん、捨てようと思ったときの私が一瞬「待てよ。全く同じものなら捨ててもいいけど、こっちはもしかしたらいつか使うかもしれない」と思って取っておいたのだろう。
過去の私、グッジョブ。
大鏡の方を覗いてみると...めちゃくちゃ見やすい!

子どもの頃、祖母の家に拡大鏡があった。
目のいい人が眼鏡をかけると気持ち悪くなるのと同じで、子どもの目でその拡大鏡を見るといつも気持ちが悪くなって、「なんでこんなもの置いてるんだろう」といまいましく思っていた。
でももう今は、拡大鏡を見てもまったく酔わない。
それだけ目が悪くなったのだ。

自分が当事者になるまで必要性が分からなかったものって、本当にいっぱいある。
出産育児用品もそうだし、拡大鏡もそうだ。
何事にも、「先達はあらまほしきことなり」とはよく言ったもの。

どうでもいいけど、この手鏡を見るたびに「テクマクマヤコン」って思うのどうにかしたい。