花火を求めて三千里

週末は、四年ぶりに開催された花火大会だった。

花火好きの夫は会場まで行く気満々で、そのことを二週間ぐらい前に知って全力で止めた。
四年ぶりともなれば、人出はすごいに決まっている。
四年前ですら、駅からの道はすごい人で身動きが取れず、当時三歳前の長男を連れて歩くのは、行きも帰りも至難の技だったのだ。
今は同じ年頃の次男がいて、さらに長男もいる。
河川敷の仮設トイレは長蛇の列で、まだオムツの次男はともかく、長男が「トイレ!」と急に言ったらどうするのか、考えるだに恐ろしい。
しかも河川敷は暗くて、トイレまで行くのも元の場所に戻るのも一苦労なのだ。
その間は足元に注意して人を避けなければいけないから、もちろん花火なんて見れないし。
そういう想像力を働かせずに、楽しいところだけ思い描いて「行こう!」となるのは、世の父親たち皆がそうなのだろうか(反語)。

かくして全力で止めた結果、夫は渋々穴場の花火見えるスポットを検索し始めた。
でもそれも、ネットに既に上がっている情報なのだから、四年ぶりともなれば混むのは必至。
やむなく私が、方角と標高その他から「ここなら少しは見えるんじゃない?」と予想して、自転車で行ける範囲のとある場所に行ってみることになった。

開始時間15分前に行ってみると、何組か家族連れやカップルがちらほら。
でも全然混んではいなくて、「これで見えたらかなり穴場じゃない?」と言いながらスタートを待っていたら、定刻に始まった花火はまずまずの見え方だった。

私はここでも十分だったけれど、風向きなのか音があまり聞こえず、夫はやや不満そう。
一時間の打ち上げ時間のうち、後半30分は「他のスポットを探しながら帰る」と言うので、まぁ涼しいしいいか、と自転車での穴場巡りにつき合うことにした。

少し走ったところに、四年前にはなかった商業施設があるのを思い出して、そこの屋上に私と長男が偵察へ。
四年ぶり開催だから、まだ知られていない穴場である可能性があるからだ。
上がってみると、果たしてさっきの場所よりたくさんの人がいて、さっきよりもよく見える。
何より商業施設なので、飲食店やトイレもそろっている。
ここいいんじゃない?と思っていたら、「○○くん!」と長男の声を呼ぶ人がいて、見ると元同じ幼稚園のファミリーだった。
いろいろ情報交換したかったのだけれど、他にも穴場を探しに行きたい夫が下で待っているので、挨拶もそこそこに仕方なくバタバタと自転車に戻った。

何しろ、花火大会が終わる時間までにいろんな場所からの見え方をリサーチしなくてはならない。
夫に付いて自転車を飛ばしながら、「何かこういうのあったな...」と考えていて思い出した。
探偵!ナイトスクープ」の視聴率調査だ(←分かる人には分かる)。
ナイトスクープが放送されている時間内に、探偵ができるだけ多くの家庭を回って、実際にナイトスクープが茶の間で流れているかを調査する、あれだ。
じっくり一軒にとどまっている暇はなくて、ナイトスクープが茶の間で流れていることを確認したら、即座に「お邪魔しましたー!」と言って次々に家を当たらなければならない。
今回の花火穴場スポット探しは、まさにそれだった。

最後にたどり着いたのは、とある小高い場所。
なんとなく方角の見当をつけて走っていたら、急にたくさん自転車が停まっている場所があって、その先が小高い丘になっていたのだ。

ちょうど花火もフィナーレ。
丘の上にはどこから湧いて出たのかと思うほど急にたくさんの人がいて、でもグループ間の距離は適度にあり、「ザ・花火大会」という雰囲気だった。

ここなら、来年ありかもしれない。
夫もようやく納得して、来年はここで見てみようということに落ち着いた。

帰りながら夫に「探偵!ナイトスクープの視聴率調査って知ってる?」と聞いてみたら「なにそれ?」と返された。
こういうとき、配偶者が同じ番組を見て育ってきていないことがちょっと寂しい。