秋なのにゾッとした話

そろそろ更年期なんだろうか...と思える症状が気になってきたので、以前健診に行ってみたレトロな婦人科へ。
一回目は採血、二回目は結果を聞きに行く日で、次男のプレ幼稚園の間に結果だけサッと聞きに行こうと、次男を送ったその足で婦人科へ向かった。

待合室には中年女性が一人。
さらに診察室からも声が聞こえてきたので、先客は二名いるようだった。
私は、次男をこの後予防接種に連れて行くので、スマホで小児科のWeb予約を進めながら順番を待つ。

まもなく診察室からおばあちゃんが出てきて、入れ替わりに中年女性がすぐに呼ばれて入って行った。
そうしたら、おばあちゃんが急に「ちょっとごめんね!」と私の肩をポンと叩き、待合室で服を脱ぎ始めるではないか。
私はずっとスマホで小児科の予約をしていたのでそもそもそっちを見ていなかったのだけれど、肩を叩かれたので「あぁ、すみません」と体の向きを変えておばあちゃんの着替えが見えないようにしようとしたら、「いや違うのよ、いいのいいの!このあと子宮の健診なのよ!今日は~...」とおばあちゃんは着替えながらめちゃくちゃしゃべり始めた。
いわく、乳癌健診はズボンがいいけど、子宮の健診はスカートの方がいいから、はきかえているのだそう。
「わざわざ...(ご苦労様です)」と愛想笑いをしたら、そこからおばあちゃんの弾丸トークが始まった。

おばあちゃん「いまね、乳癌健診したんだけど、どこも異常ないって!乳癌健診って痛いよねぇ!でもやっぱりした方がいいっていうしねぇ!」
私「そうですね~...(もしかしてこれずっとしゃべられんのかな...)」
ば「私ね、この年だけど元気なの!どっこも悪くないの!もう私いい年なのよ?そうは見えないって言われるけどね、いい年なの!」
これは年を聞かなきゃいけない流れ...?
私「そうなんですね...おいくつか聞いても?」
ば「(待っていたように)いくつに見える?」
出た!めんどくさいやつだ!
一応鉄則で若く言わなければならないので、九十ぐらい行ってそうに思えたけれど「八十代...ですか?」と言うと、一瞬の間があり「そう、八十代」。
...しくった~~~!何の罠だよ!
が、おばあちゃんそれほど気にする様子もなく話を続ける。

しばらく健康自慢が続いた後、突如話題が変わった。
ば「嫁がね、できないの」
...は?
ば「嫁がね、料理をね、作らないの」
あぁ、そういう「できない」か。
一瞬、自分の息子に嫁が来ない話か、息子夫婦に子どもができない話かと思った。
ば「お見合いだったんだけどね、やっぱね~、ちょっとよくなかったかなと思って」
私「そうなんですね~」
相槌を打ちつつ、これはきっと、なかなか嫁が来なくて親主導でお見合い→晩婚というパターンか?と推測。
ば「でね、息子は嫁が作っても食べないのよ」
え、嫁作ってるじゃん!
作ってるのに食べないってそれ、モラハラとかでは。

このあたりからちょっと話に興味が出てくる。
というか、これは延々しゃべられるパターンだと観念しつつあって(だって私はずっとスマホを中途半端に持ったままなのにお構いなしにしゃべってくる!)、それなら...とネタ集めモードにシフトしたのだ。
ば「息子は肉を食べないのよ。なのに肉ばっかり出すの!だから食べないのよ」
私「あぁ、息子さんベジタリアンなんですか」
おばあちゃん、なぜか一瞬黙るけど、そのままトークを続ける。
ば「だから体が心配でしょ?それで私が毎日毎日、この年なのにハンバーグやらミートボールやら餃子やら作ってるのよ!大変よ?こんな年なのに!でも挽き肉だったら食べるからね」
あぁ、そういうことか。だからベジタリアンで一瞬黙ったわけね。
...ていうか、え、ちょっと待って?
結婚した息子のごはん、八十代の母親が毎日作ってるの?
しかもハンバーグに餃子って、それ完全におこさま大好物メニューじゃん...。

思わずゾッとした。
いい年して毎日おかんにハンバーグ作ってもらって喜んで食べてる男って...私なら無理だわ。
だから息子、晩婚だったのでは?(知らんけど)
ていうか嫁、よく来てくれたな。
さっきまで料理ボイコットの悪い嫁イメージだったけど、むしろ嫁に同情を覚えてきた。
しかも姑こんなんだし(笑)

私がゾッとしている間にも、トークは止まらない。
ば「もう結婚して25年も経つのにね、ごはん作らないのよ、作っても美味しくないの!だから息子も食べないのよ」
えっ、25年?晩婚じゃなかった!
てかその年数、さすがに息子、自分で作ろうよ。いまだに母親頼みってどうよ。

ふと疑問になって「お子さんはいらっしゃらないんですか?」
ば「いないのよ!」
私「あぁ、そうですよね。お子さんいると、ごはん作らないのは無理ですもんね」
ば「そうなのよ、でも今になるといなくて良かったって息子は言ってるのよ。あんな嫁じゃあねぇ」
私「ハハハ...(引きつり笑い)」

そうこうするうち、さっき診察室に入って行った中年女性が診察を終えて戻ってきた。
ということは、そろそろ私の番だ。
おばあちゃんとのトークもこれで終わりだな。

...と思ったら、おばあちゃん、中年女性に向かって「お疲れさま」と話しかけた。
え、知り合いなの?
二人は親しげに話し始め、中年女性がおばあちゃんに「おかあさん、○○...」と話しかけているのが聞こえた。

えっ!
まさかこれ、嫁じゃないよね?
娘、だよね?
この人が嫁だったらめっちゃ怖いんだけど。今の今までめちゃくちゃ悪口言ってたんだけど~!

確かめる術もないまま、「○○さんどうぞー」という声が聞こえたので、仕方なくそのまま診察室へ向かったのだった。

検査の結果は異常なしですっきりだったけれど、待合室でゾッとした秋の日。