Rouge

昨年あたりから無性にずっと欲しかったもの。
マスクなしが解禁になったのもあるけれど、卒園・入学式を前に、買うなら今だ、と思った。

前に買ったのはもはやいつだか思い出せないほど昔。
もともと、マスク生活になる前からいわゆる「口紅」はもう買っていなかった。
以前もずっとグロスが流行の主流だったし、世の中もアイメイク中心だったからそれで十分だった。
口紅は、つけるとしても誰かの結婚式ぐらいで、色もベージュとか薄いピンクのような淡い色しかつけなくなっていた。

それがマスク生活二年目あたりから、無性に鮮やかな色の口紅が欲しくなってきたのだ。
マスク生活への明らかな反動だろう。
鮮やかな色だけでなく、「スティック状の口紅を塗る動作をしたい」という、謎の欲求も高まっていった。

思い描いたのは、細身のスティック。
角がシャープで、黒っぽいボディがいい。
ネットでいくつか検索したものの、メイク用品はやはり実際つけてみなければ分からないので、用事ついでに立ち寄れる場所のお店を覗いてみることにした。

口紅コーナーを見ていたら、すぐに声をかけてきた美容部員は男性だった。
しかも、すぐにそれと分かるおねえっぽい人。
ここのお店は最近そういう感じの男性(でいいのだろうか?)が増えていて、あぁ、こういう人が普通に好きな仕事に就ける世の中っていいなぁと、いつも通り過ぎながら見ていたのだ。

私がかくかくしかじかで久しぶりに口紅を買いに来たと言うと、彼は「これなんかきっとお似合いだと思いますー」と、一本の口紅を勧めてくれた。
私が、自分だったらきっと選ばなかったであろう色。
「透明感があるお肌をしてらっしゃるので...」という言葉を聞いてもドギマギひるまなくなったのは、年を取って面の皮が厚くなったせいだ。
ひるむどころかまんまと気を良くして、試してみたら確かに悪くない。
もう一本私が選んだ色も試してみて、どちらもそれなりに映えたけれど、ここは素直に他人の言うことに従ってみることにした。
眼鏡とメイクは、たぶん自分だと近目でしか見ないからだろう、他人の意見の方が正解だったりするのだ。

花粉対策でもうしばらくマスクは外せないけれど、卒園式や入学式の写真はこの鮮やかな色で写るだろう。
マスク姿の入園式から三年後、卒園式はカラフルな笑顔の写真を残したい。