酒場スイッチ

学生時代の友人から「仕事で東京に行くから、晩ごはんでもどう?」という連絡があったのは、ちょうどその二週間前のこと。
夕方まで出る用事があったので、子どもたちの夜は夫に任せ、何万年かぶり(大げさ)に女二人で飲みに繰り出した。

会うのは実に五年近くぶり。
彼女が「どっちかというとワイン系の気分」というので、ビストロ系のお店へ。
きちんと料理されたおつまみが揃った、飲みには最適のお店だった。

本当にしょっちゅう飲み歩いていた、三十代の頃を思い出す。
よく行ったのはやっぱりビストロ系のお店で(ワインとおつまみがあればよかった)、街を歩いていてニンニクとオリーブオイルの香りがしてくると、いまだに「あ~、飲みに行きたい!」と思う。
ニンニクとオリーブオイルの香りは、私にとって「飲みに行く」スイッチなのだ。
アルコール依存症の人が、治ったと思っても何らかのスイッチがあるとまた飲み始めてしまうという話を聞いたことがあるけれど、そのスイッチというのは、きっとこういう「酒場の匂い」とかなんだろうなと思う。

この日は手始めのビールの後、白、白、赤、赤と計4杯のワイン。
ナチュラルワインだったせいか、翌日にもぜーんぜん残らなかった。

気持ちよく飲んで、気持ちよくしゃべりまくった春の夜。