北海道旅行記⑧五日目後半 積丹半島の秋

神威岬の駐車場に着いたのは15時前。
日本海を望む積丹半島の陽は、もう夕方を思わせる傾き具合だった。

ここに来るのは確か三回目だったかな。
うち二回は二、三年のうちに続けて来たから、最後に来てからはもう十年ぐらいになるかもしれない。
秋に来るのは初めてで、ススキがとっても綺麗だった。

駐車場から岬の先端の灯台までは、歩いて二、三十分ほど。
すれ違うのも譲り合うほどの一本道を歩いて行くのだけれど、周りは積丹ブルーと呼ばれる絶景の海で、あちこち立ち止まりながらの道中だった。

万里の長城のような道を、海風に吹かれながらひたすら歩く。

行けども行けども辿り着かないような気がしたけれど、とうとう岬の先端に到着。
海の中に見える岩が、神威(かむい)岩なのだった。

古来、岬に神が宿るとされてきたのはとてもよく分かる。
日没までずっと見ていたいような景色だったけれど、駐車場まで戻る一本道は、夕方になると閉鎖されてしまう。
しばらくあちこちで写真を撮ったり、海を眺めたりした後、また駐車場まで万里の長城をひたすら歩いて戻ったのだった。

日没を待たずに先を急いだのはもうひとつ目的地があったからで、それが、神威岬から十分ほどのところにある「岬の湯」という日帰り温泉に行くこと。
ここも昔行ったことがあって、夕陽の時間帯が特に狙い目なのだ。

長男はかなり歩かされて疲れていたのと、何度もちょこちょこ車を降ろされることに文句を言っていたけれど、「次は大きいお風呂行くよ」と言うとちょっとやる気に。
さらに、ロビーから見える一面の海の景色を目にして、「もしかして、お風呂からあそこが見えるの?」
そうだよ、と言うと「えっ!いいじゃんいいじゃん!はやくいこう!」と急に勢いづいて動きが早くなったので、露天風呂好きのオッサンか!と夫とウケてしまった。

どっちがどっちを入れるかジャンケンであっさり負け、私は手のかかる次男と女湯へ。
まだまだぽちゃぽちゃの次男と一緒にお風呂に入るのは、抱っこしてても気持ちいいから好きなんだけど、何せ露天風呂でもずっと抱っこしていないといけないし、脱衣場で自分も拭きながらお世話をするのがとても大変なのだ。
まぁでも、私はここに来るのが三回目で、初めての夫と長男はゆっくり楽しんでくれたようなので、良かった。

早々にお風呂を上がって夫と長男を待つ。
しばらくして湯気の立つ二人が上がってきた。
長男はちょっとリフレッシュしてピカピカの笑顔。

予定ではここからニセコ方面に戻りつつ、どこかで食事をするか買って帰る予定だったのだけれど、意外に遅くなってしまった。
大人はともかく、子どもは帰るまでお腹がもたなさそうなので、ちょうど併設されていた食堂で食べて帰ろうということになった。

ロビーに戻ると、ちょうど夕陽クライマックスの時間帯。
外に出られるスリッパが用意されていて、みんなそれを履いて夕陽を見に庭へ出ている。

私たちも急いで車からカメラを取ってきて、庭へ出た。
お風呂上がりの体に、ひんやりした夕風が心地いい。

遠く左に見えているのが、さっきまでいた神威岬と神威岩だ。
夕陽が完全に沈むまで、刻々と変わる空を皆で見ていた。
夕陽が沈んだ後は、暗い海に数隻の船が煌々と光り始めた。
烏賊釣り船だ。これもまた、美しい。

ちなみにこの岬の湯は、以前私が来たときは町営だったのだけれど、赤字続きで休館、のち民営化されて間もないようだった。
まだまだ軌道に乗っていなくてピンチ、みたいなことが書かれていたけれど、この絶景と、温泉施設が既にあることを思うと、宿泊可にしてテコ入れすればけっこうな名所にできるのでは...と素人目には思うんだけれど。
北海道のさらに行き止まり、みたいな立地ではあるから、難しいのかなぁ...。
隣に何か新しい施設もできていたから、将来的にはけっこう集客力のある施設になるのかもしれない。

景色に見とれているうちに、食堂のメニューが売り切れて半分くらいになっていることに気づいた。
残っているメニューがいまひとつだったので、慌てて子どもたちの分だけ注文し、大人はまた帰る道中考えることに。

子どもたちを食べさせ、帰路に着く頃にはもうすっかり夜。
まだ18時台だったけれど、開いている飲食店は見たところない。
宿に着く頃にはもうスーパーも品薄になっていそうだったから、ここでまたしてもセコマのお世話になることになった。

この旅で何回お世話になったのか、セコマ(笑)

子どもたちは車中爆睡。
でももう、今日はお風呂まで済ませてあるので気が楽だ。
宿に着くと急いで子どもたちを寝かしつけ、大人たちは明日の出発に向けて荷造りを済ませ、最後の夜も一瞬で眠りについたのだった。