鉄仮面

ムクゲの花が咲き始めた。
夏の花で、目下一番好きな花。

薄い紫のものが一番夏らしくて好きだけれど、鮮やかなピンクや、潔い白もいい。
なんだろう、見ると一瞬、涼が感じられるのだ。
日中は日中で、陽炎の中に揺らいでいるような姿が良いし、夕方は夕方で、浴衣の女性が団扇を手に涼んでいる姿が連想される。
風鈴の音や蚊取り線香の匂いが漂ってくるようで、本当に好きな花だ。

夏が苦手で苦手でどうしようもないのだけれど、子どもたちの送迎で毎日数回自転車に乗らざるを得ない。
去年までは帽子とサングラスにアームカバーだったのだけれど、今年ふと思い付いてサンバイザーを試してみたら、これが思いの外快適。
何年も前、畑作業のためにホームセンターで安く買ったものの、畑作業にはてっぺんがあいているのが致命的に不向きで(日射がすごかった)、すぐに使わなくなった。
でも、自転車には大正解。
帽子よりも断然風が通るし、サングラスをしなくてもまぶしくない。

かくして私は、あっという間に「サンバイザーとアームカバーをして自転車に乗るおばさん」になった。
なってみて分かった。
あれは、正解。大正解。
夏の自転車の、最適解なのだ。

そしてまもなく、「顔全体をサンバイザーで覆っているおばさん」へとさらに進化した。
あの、鉄仮面みたいなやつだ。
自分がそうなるまでなぜそうなるのか全く分からなかった(そんなに日焼けしたくないのか?と思っていた)けれど、違うのだ。
あれは、風の抵抗を受けにくくしているのだ。
サンバイザーはつばが大きく、風が抜けやすい構造をしているから、ちょっと風が吹くとすぐに飛んで行ってしまう。
それを避けようとつばの角度を調整するうちに、「これ、顔全体覆うのが一番いいわ」と気づいたのだ。
もちろん日焼けも防止できるし、色付きのフロントガラスみたいなものなので、まぶしさもだいぶカットされる。

かくして私は、あっという間に「鉄仮面の自転車おばさん」になった。

「そうでない側」だった頃は、色付きフロントガラスと同じで「運転手の顔が見えないから危ないじゃん」と思っていたのに。ごめんなさい。
風の少ないときはちゃんとつばを上げて、顔が見えるようにして運転している。

いつか、ドーム型の屋根がついた自転車が発売されればいいのに。